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「寝ちゃいましたね」
沢木に抱きつき盛大に泣いてそのまま眠ってしまった駆の撫でてそっと顔を覗き込む
「本当、面倒なことになっちまったな…普段ならこのままとんずらしちまう所なんだけど…そういうわけにもいかねぇよな」
そんなことをしたら、こいつがどうなるのか分からない
放っておけばいい話だけれど、何故か情が移ってしまっている
「チッ、らしくねぇな」
マジで俺らしくねぇよ
「まったくですね。普段なら、こういうことになったら強制的に裏に引っ張り込んでいたでしょうに」
クスッと笑う沢木にムッとしたが確かに事実なので何も言い返すことができない
「そうだろうな…しかし、警察絡んでるし、そういうわけにもいかねぇよ」
これからどうするべきか…
事情は説明するにしても疑われるのは間違いない
厄介なことになった
「東雲さん、駆のことなんですが」
「あ?」
沢木を見ると真剣な顔でコチラを見ていた
「考えたんですが、やはり東雲さんのところの1千万はウチが肩代わりして、駆を引き取ろうと思います」
「な、何言ってんだ!てめぇ!」
「こんな面倒ごと、貴方のところだと確実に少し落ち着いたら早めに回収しておこうとするでしょう?」
確かに、ウチの方針はそういうところがある
しかし
「心配しなくてもそんなことさせねぇよ」
今回だけは本当に俺らしくないことばかりしているのだ
「貴方がそう言っても、幹部が許さないでしょう」
「説得するさ。それに、俺が今のところコイツを気に入ってるからな」
ただ、絶望していただけかもしれないが、それでも俺達から逃げることなくまともに接してきた奴だ
沢木には分からないかもしれないが、俺なんかは明らかに一般人じゃないと見て分かるらしく外を歩けば目を逸らされ、取立てに行けば怖がられる
そのおかげで何もしなくても回収率は良いのだが、親しい奴というのは昔から同じグループ内以外ではいなかった
だからこそ、駆が珍しく、興味があるのかもしれない
そっと駆の髪を撫でる
「なぁ、沢木。何なら、お前のところの1千万俺が肩代わりしてやってもいいんだぜ?」
「なっ!そう言って、まさか駆に無理させるつもりなんでしょう?!離れなさい!」
俺の言葉に怒り間に割って入ろうとする沢木を片手で制して
「もし、こいつの親戚が、こいつの両親が借金があることを知っても、こいつを預かってちゃんと育ててやれると言うような親戚なら、そのまま帰してやろうと思う」
「え?」
俺の言ったことが信じられないのか数回瞬きを繰り返す沢木
「貴方からそんな言葉が出てくるなんて…信じられないですね」
「まったくだよな。まぁ、聞けよ。続きがあるんだ」
一回そう言い置いてから
「もし、そうじゃなかったら、俺が駆を引き取ろうと思う。勿論、中学卒業まで面倒見る。場合によっては高校まで面倒を見てやってもいいと考えてる。イマドキ、高卒でも辛いのに、中卒じゃあまともな仕事はないだろ?」
「本当にさっきから信じられない言葉ばかりですよ…それ、本心ですか?」
「あぁ、今決めた」
どうせ中学生には手を出せない
それに、長期的に返済させるのなら少し遠回りしたって変わらないだろう
「本気、なんですね?」
「あぁ、そうだ」
ハッキリそう言うと沢木は疲れたようにため息をつき
「分かりました。確かに、今の時代では中卒では割りの良い仕事はないですしね。分かりました。駆に合った高校を探しておきましょう」
「…待て、何故お前が探すんだ?」
俺が面倒を見ると言ったつもりなのに
「私にも駆の面倒と将来に関わる権利がありますからね。下手な学校に入れて卒業証書は貰えてもランクが悪いとその後結局は変わりませんからね」
「…チッ、勝手にしろ」
結局、沢木を撒くことはできなかった
俺達が駆の将来を左右する
今更ながら本当に大変なことになったようだ
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